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メディア掲載・プレスリリース

2015年8月26日 環境新聞
失われる生物多様性 自然資本経営への変革 第10回 都市から里山へ資金循環

木材を燃料にしたり、また食糧を採集するなど、日本人が古来から利用し親しんできた里山。その約6割の自然が消失し、里山の固有種が絶滅する恐れがあると危惧されている。林業が衰退し荒廃していると懸念されてきた全国の人工林は、円高で外材の価格が上がったことなどで利用が進みつつあるが、同様に荒廃しつつある里山を含む天然林では、未だ対策の道筋が立たない。各地の保全団体による再生活動が主流だが、問題は活動資金だ。固有の自然生態系を生かし、都市の資金を地域に循環させる仕組みの構築が求められている。(福原詩央里)

「もともと環境に特化した市民の意識調査を行っていたが、意識だけだと何も変わらない。意識は十二分に高いが、動かないから問題。動かすためにはどうしたら良いか」-。市場調査・コンサルティングを行う環境ビジネスエージェンシーの鈴木敦子社長は述べる。「ポテンシャルはあるのに動かない層に対していかに働きかけるか。その社会実験、インフラづくりをしようとNPOを立ち上げた。」
同社が中心となり立ち上げたNPO環境リレーションズ研究所。記念樹の販売を通じて里山の森林再生を支援する「プレゼントツリー」プロジェクトを主要事業とする。記念樹1本ごとに植林証明書を発行し、その土地に見合った植生の苗木を植えるもので、国内外22ヶ所で森づくりを行っている。2005年1月に開始し、これまでに320万人が参加、10万5千本の木が植えられた。

都市・地方の循環つくるシステム構築

地元の首長と林業家、森林の所有者で協定を結び、最低10年間は保有管理する。林業の担い手がいない地域では、「人工林を元に戻しても担い手がいない。せめて拡大造林以前の雑木林、里山に戻していこうと」。広葉樹の混交林を目指し、様々な樹種を植える。
人工林はほぼ永久的に人の手が必要だが、里山に戻すには最短3年、最長7年の管理が必要とされる。参加者の多くは、首都圏を中心とした、都市の人々だ。「10年の間に苗木が育ち、愛着も育つ。その苗木がどうなったか、見に行きたくなる。見に行けば地元との交流が生まれ、地域活性化につながる。日本全国の地域が過疎化するなかで、都市部に遍在する人とお金が森を起点に流れていく循環を目指している」。

地中の在来種が復活

「プレゼントツリーのスキームで救えない森が出てきた」と鈴木氏。同社は10年、静岡県熱海市の森林を取得した。JR熱海駅から伊東線に乗り換えて数駅の場所にあるが、「こんな近場にこんな放置林が人知れず何十年も眠っていたのかと」。
「最初に入ったときは、足の踏み場もない真っ暗な森。除伐しながら入っていった」。戦前の里山時代から放置され、シカやイノシシが繁殖。補食されない有毒な在来種・オシケミやトゲを持つヒイラギなど、偏った植生の森になっていた。
同社は近隣のボランティアとともに熱海の森の再生活動に取り組んだ。尾根筋の一部で「プレゼントツリー」の植樹も行っていたが、除伐や獣害対策など、管理に必要な資金を継続的に生み出すのが難しくなった。そこで新たな仕組みとして生み出されたのが、「アーバン・シード・バンク」プロジェクトだ。
除伐により森の内部に日光が差し込むようになると5メートル四方に約2千株が発芽した。森林の土壌には在来種の種が生きており、生存環境が整えば一斉に発芽するためだ。「日本の植物の25%は絶滅危惧種。その原因は里山の植生が芽生えなくなっているためだ。我々はまさにそれを体感した」。
「土に埋もれた未利用資源のままで良いのか」。積極的に手を入れて発芽させたあたり一面の在来種も、放置すればまたシカやイノシシに捕食され、淘汰される。淘汰される苗を積極的に都心の緑化に生かそうと考えた。
「アーバン・シード・バンク」プロジェクトでは、里山の苗を都市の緑化に使い、都市から地域への資金の還流を目指す。金網でできたプランターに希少種を含む里山の在来種を9~40種程度寄せ植えした「里山ユニット」を、サイズ別に全8種類で展開している。
同社は一昨年度、中小企業庁の「中小企業・小規模事業者ものづくり・商業・サービス革新事業」に採択。試作機を46機製作し、うち22機を銀座のビル屋上やカフェの軒先などに設置した。
プロジェクトは同社とNPOの他、2者の共同で行われている。緑化システム設計のゴバイミドリがユニットの製造を、熱海の森の管理のために立ち上げたボランティア団体、フォレストウォーカーがすべての種苗管理を担当する。
ユニットには、コナラやカシ類など、常緑の木が必ず1本入る。高木から中木、低木まで揃い、「都市の小さなスペースにほぼ森を再現する」。ヤマブキやヤブムラサキなどの花も植えられ、「四季が感じられる」という。
手入れは週1~2回の水やりと、年2回の剪定で済む。各ユニットにはシリアルナンバーとQRコードが与えられ、苗の出身地や管理の様子などが分かるようになってる。

里山保全モデルを全国に展開

熱海の里山の他、栃木の里山や、茨城で地域性在来種を挿し木で増やしている圃場があり、その圃場のものを混食している。対象地域は環境省が公表する「生物多様性のための国土区分」に限定。全6区分あるが、区分を越境して利用しないことをルールとしており、今は関東圏を含む区分のユニットのみを展開している。
今後は、関東圏以外の里山にも取り組みを広げていく考えだ。全国の里山保全団体との協力を模索。全国で市場が立ち上がれば、里山の再生活動を資金的に支えられるとする。
また、「街中にいながら森林教室を開けるのでは」。里山ユニットを商業施設でのイベントや企業の社員研修で使うことも提案する。公共利用の他、民間の開発・再開発事業でも需要があると見て、8月から大手ゼネコンを中心に本格的に売り出していく考えだ。

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